集金に向かった。
件数も100件を切っていたので、最初から最後まで回ると
また最初に戻って各家を回る。
時間差があるので、最初に回った留守の家も次回ると帰宅している
場合もあるのだ。
そんな風に一週目30回収、二週目15回収、三週目10回収と
ぐるぐるぐるぐる回って金を集めていく。
そしてまた今日も・・・。
東京の夏を絶賛初体験中のこの俺。
コンクリートジャングルと形容されるように、ビルやアスファルトからの
照り返しも相まってるせいか、今まで経験したことのないような暑さを感じている。
まるで空から熱したナイフが無数に降り注いでいるような灼熱だ。
3日ほど前に新しい専業さんが入ったんだが、腕が真っ赤になって
皮がところどころベロりと剥げていた。
おそらく3日間、暑い中を空回りして(させられて)この凶器のような太陽熱に
やられたんだろう。
ある意味労災だよな。
ちなみに俺は常時長袖長ズボンで配達している。
アトピー肌を隠すためでもあるんだけど、この日差しから身を守るためでもある。
無神経な同僚からは、お前何長袖なんて着てんだよウェ~イwwと小馬鹿にされる
こともあるがそんな事にはかまっちゃいられない。
配達する前からすでに汗ダラダラではあるけども・・・。
所長に呼び出されて、配達が遅いとクレーム来てるから
もっと早くしろと言われた。
さらに、転送人が居なくなったことで君の配達箇所は今後増えるから
もっともっと早くしろと言われた。
この転送人が配達してた個所の1部は、元々俺の区域だったらしい。
だが俺の先代、前の配達員がそこを配達してると間に合わないと嘆いたので
仕方なく転送人に配達させていた経緯があるという。
転送人が居なくなり、また元の体制に戻そうという事だろうが
冗談じゃないな。馬鹿かつーんだよ。間に合うわけない。
ただでさえ配達が遅れてるってのを分かってるはずなのに
こんな無茶な要求をする理由は察知している。
俺の先先代、前の前の配達員はその個所を含めても
午前5時半くらいには配達が終わっていたらしいのだ。
なので、俺や先代がチンタラ配達してると思われてしまってるんだな。
この業界、キチガイのように早く配達する人も存在する。
すごいと思う。だが、そんな人を指標にされたらたまったもんじゃない。
そろそろ潮時かもしれんな・・・。
やっと今の今まで集金から逃げていた極悪不良読者から
金を回収することが出来た。
業を煮やしたので、2日ほど前に脅迫文をポストに入れといたんだが
やはり正解だったようだ。
慌てて電話してきてすんなり支払ってくれた。
本当ならノシを付けてもらいたいくらいだがまあいいとしよう。
まだ集金は残っているが、とりあえずはメドが付いた。
喉につっかえた魚の骨が取れたような気分だ。
この店で働き始めて3か月弱。
同僚とは普段、ほとんど話さないんだけど集金時や
電話番の時だけは少し話してるんで大体この店の事も分かってきた。
驚いたのが、専業の人達も俺のようなアルバイトとあんまり給料が
変わらなかったという事だ。
専業はランクというものがあるらしく、俺が話を聞いた専業さんは
一番下っ端のようなのでなんともいえないが、なかなか厳しい経済状況のようだ。
まあ専業といっても、今俺がやってる仕事に区域管理という読者の契約
更新なんかをする業務が加わるだけだからな。
それでもバイトより忙しいのは間違いない。
奴さん達、配達が終わってからも洗剤とかを後ろに積んで走り回ってるし。
専業になったことはないのではっきりとは言えないが
俺のようなバイトの立場で例えたなら、終わりなく集金を延々とやるような。
そんな時間のやり繰りだと思う。
少し前に、俺より一回り年下の専業さんと話してると
近い内、できればこの夏が終わるまでには辞めると言って眼を滾らせてた。
えっ!?と思ったがこんだけ忙しなく働いてバイトとあんまり
給料変わらないんじゃなぁという憐れみを覚え
何も言えなかった。
俺もそろそろ進退を決めないとな・・・。
まだ入って3ヶ月しか経ってないけど・・・。
今日は都議選の影響で朝刊が30分遅れた。
俺は今、東京の府中市というところに住んでるんだが
ここ一週間ほど色んな党が拡声器でガンガン叫んでいる。
うるせえなあと思ってたんだが、少し前に
「府中市のみなさん、小池百合子です」
という声が耳に入ってきたことがあった。
小池百合子といえば現東京都知事であり、何かと有名な人だよな。
都心から離れたこんな街にも来るのかと感心し
どれ、あのかわいらしい熟女姿を一目拝ませてもらうかとベランダへ出た。
しかし、一時演説を聞いてるとどうも同じフレーズばかりを
繰り返し喋ってる気がする。
どうしたんだ百合子?やる気が無いのか!?
もっと他にも言うべきことがあるだろう。
結局、姿を拝むことなく部屋へ戻った。